エリオガバロ
- 2016年9月28日
- 読了時間: 6分
ガルニエでオペラ《エリオガバロ》を観てきました。
せっかくパリに勉強に来たからには、知っているオペラも知らないオペラも、バレエも、時間とお金の許す限りなるべく観よう、と思っての記念すべき初鑑賞。
にしてもこれ、知らなすぎる!笑
ということで予習しようと思ったのにネットにあらすじすら載ってない!!
作曲者のカヴァッリも初めまして!!!
という状態からのスタートでしたが、案ずるより産むが安しというのか、音楽の説得力というのか、カウンターテナーの妖しい魅力を思い知らされて十分に楽しみました。
カヴァッリはモンテヴェルディの弟子で、ヴィヴァルディの一世代前あたり、17世紀の作曲家。《エリオガバロ》は1668年のヴェネツィアのカーニヴァルで初演される予定で作曲されたものの、なぜか他の作曲家の作品が上演されることになってしまい、こちらはそれ以来ずっとお蔵入りになっていたのを2004年に指揮者のルネ・ヤーコプスが発掘上演したものらしい。
大澤はタイトルの「エリオガバロ」さえなかなか覚えられず、「エリオ…ガルボ?」「エリオ…ガバチョ?」という状態でしたが、このエリオガバロというのは人の名前。イカれたローマ皇帝ヘリオガバルスをモデルにしています。
ヘリオガバルスはWikiに載っていたので読んでみたら、「マルクス・アウレリウス・アントニヌスの通称」と書いてある。この名前にピンと来たあなた!世界史を一生懸命勉強して五賢帝を暗記しましたね!!そうです、ネルヴァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニウス・ピウスとだんだん名前が長くなってきて、最後に駄目押しのように来る一番名前の長い奴、マルクス・アウレリウス・アントニヌス。彼の話かー。と全く思い込んでWikiを読み進めていったら、いったいどこが「賢帝」だったのかまるでわからない内容で、「ローマ史上最悪の君主とされる」とまで書いてある。
いわく、
・15歳で即位したヘリオガバルスは、「皇帝として自制心をもって慎重に生きるように」と諭した家庭教師を、不愉快だとして殺害
・地元エメサからの長旅を経てローマに入場する際は、地面に届きそうな長袖の司祭服+ネックレスや腕輪などの豪華装身具+宝石をちりばめた帝冠+女装。ローマのみんながたまげた
・甚だしい公私混同。愛人(男性)の奴隷、ヒエロクレスを共同皇帝にしようとした。さらに、別の愛人である戦車競技選手のゾティクスを執事長に任命。
・わずか19年の生涯で、結婚と離婚を繰り返しすぎ。ハイライトは、「ウェスタの処女」といって、本来身を清く保たなければいけない神職の巫女を手篭めにして妃にしたこと(彼女と結ばれれば神のような子供が授かると信じたという。アホか)。禁忌を破った場合は生き埋めにされるという掟はガン無視。
・宮殿内で売春ごっこ(※自分は売春婦役)
などなどなど。さすがにこれは賢帝じゃないだろうと思って生没年をよく見なおすと、やはり五賢帝のマルクスアウレリウスアントニヌスより約80年後に生まれた、別人でありました。よかった。なんとなく。裏の顔とかじゃなくて。
さて、結局は反乱軍に母親もろとも切り刻まれてテヴェレ川に投げ込まれるという形で幕を閉じることになったその生涯のどの部分がオペラになっているのかしら、とわくわく。
オペラは、イカれ皇帝エリオガバロの従兄弟で人望あつい(それゆえ皇帝に疎まれている)アレッサンドロが、美人のジェミラと結婚を約束し、その旨を皇帝に申し出るところから始まる。それを聞いた皇帝はすかさずこっそり家来に「ジェミラって美人なのか?」と確認。「そりゃもう」という答えを聞き、皇帝はジェミラをわがものにする決意を固める(いるよねそういう人)。さっそくジェミラを夕食に招待し、睡眠薬で眠らせて思い通りにしようという算段(皇帝なのに考えることがセコい)。ついでに同じ席にアレッサンドロも呼び出し、そちらは毒薬で殺してしまうことを計画する。しかしアレッサンドロがジェミラの危険に勘付いて変装して忍び込んで守ろうとしたり、ジェミラに飲ませるはずの睡眠薬を家来が間違って飲んだりで、計画失敗。
皇帝は折よくジェミラの兄のジュリアーノがエリテアと密会しているところを目撃する。エリテアも皇帝のお気に入りの女だった。皇帝は「エリテアはくれてやるから妹をよこせ」と持ちかけ、ジュリアーノは困惑する。しかし、そのあとで妹ジェミラと恋人エリテアの両方から「皇帝を殺してくれ」と言われ、しぶしぶ暗殺の計画を練る。ジェミラが一旦皇帝の誘いに「イエス」と言って油断させる、というのがその計画のキモであった。
エリオガバロが入浴しているところをジュリアーノは襲おうとするが、善人アレッサンドロに止められ、暗殺失敗。ジェミラは計画遂行のために皇帝にいやいや「イエス」を言ったものの、耐えきれなくなり、遂に「ノー」と言ってしまう。キレた皇帝は捨て台詞を残して退場。
アレッサンドロが闘技場にやってくる。彼の殺害を諦めていなかった皇帝が、剣闘士に殺させようとして呼びつけておいたのだった。そこへ、ジェミラがふらふらとその皇帝の首を抱えて(!)やってくる。彼女の部屋まで無理やり襲いに来た皇帝を、警護の者が殺害したのだ。
ジェミラがごろん、と首を転がすと俄かに晴れやかな音楽になり、アレッサンドロが王冠を戴く。アレッサンドロとジェミラ、ジュリアーノとエリテアという二組のカップルが幸せな四重唱を歌う。随所で出てきてアレッサンドロへの思いを訴えてはフラれ続けていた愛すべき脇役のアティリアも「そんなら別の男を探すわ」と潔く去っていき、めでたしめでたし。ただしその四重唱の背後に、皇帝の姿がぼんやりと浮かび上がる演出で、不気味なことこのうえなし。
というようなお話でした。首を伸ばして舞台を覗き込む感じのお安い席で、字幕(英仏語)も全部は見えなかったため、細かいところが違ってたらごめんなさい。だいたいこんな感じです。最後にストーリー的にも音楽的にもものすごい急展開で無理やりハッピーエンドにまとめた感には本当にあっけにとられました。
タイトルロール、イカれ皇帝役のファジョーリは30台半ばのアルゼンチン人のカウンターテナー。彼の妖しさはすごい。情緒不安定でクズで孤独で美しい権力者。3幕で金のお風呂(あれどういう仕組みのセットなんだろ、体を浸すと浸した部分がピカピカになるの)に入りつつ歌う長大なアリアが圧巻で、これはどんなにクズな野郎でもこうして口説かれたらジェミラは心が揺れたんじゃないかなと思うほど。だからこそ逆にあんなに頑なに「ノー」と言っちゃって皇帝をキレさせたのではないかなと。最後に首を抱えて出てくる前に、ほんとは寝ちゃってないとも限らないなと思わせるくらいの妖しい美しさの歌でした(カーテンコールでのファジョーリは面白いほどせかせか動いていて全く妖しくもなんともなく、逆に劇中での演技力にびっくり)。ジュリアーノ役のカウンターテナーのサバドゥスはどうやら私と同い年みたい。対照的な澄んだ声でこちらも魅力的でした。
さてさて、そんな《エリオガバロ》、ガルニエで来月15日までやっているようです^^






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